任天堂のDSやWiiの大ヒットの起源となった挫折。

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ここ最近気になる方がいらっしゃいます。それは、任天堂の社長の岩田聡さんです。ニンテンドーダイレクトでの軽快な語り口調。自らがインタビューアーとなって様々な開発者の方にインタビューを行う社長が訊くなど、自らが広告塔となり製品をアピール。これが上手く、面白い。私は勝手にこの人は文系の営業畑を渡り歩いた人なんだろうなぁと勝手に思っておりました。しかし調べてみてビックリ。元々すごいプログラマーだったなんて。その瞬間から岩田さんにハマってしまい色々調べていました。

経歴はこちらに譲るとして、一冊本を購入して読んでみました。

前社長の山内さんが岩田さんを指名した理由とかを期待してたのですが、触れられておりません。

ちなみに内容で印象に残った所をまとめると、
・1990年台後半から、ゲームソフトの売上高は減少し続けている。そのため、ゲーム人口の拡大が急務だった。
・DSは全社長の山内さんが会社を去る際に、「2画面にしたらええ」と言い残していかれた。山内さんの「勘」はとてつもなく鋭い。また、山内さんの指示には逆らえない企業文化であった。
・Wiiはお母さんに嫌われないマシンを目指した。ゲーム機を邪魔者扱いしていたお母さんを味方につけることがゲーム人口の拡大には必要だった。
・あえて最新技術を追わない。技術は人を驚かせ、楽しんでもらえるために使う。(画像が綺麗。でもハイパワーで本体が大きくファンが回り続ける邪魔者扱いされるゲーム機は目指さない。本体を小さくしたり、ファンをなくしたりして、リビングに溶け込むマシンにすることにエネルギーを注ぐ。)
 どうぶつの森は携帯電話に時間を奪われ、ゲームを触る時間が減っていく中で、何気無いコミュニケーションを遊びに変えるために作られた。宮本茂(マリオシ、ゼルダの生みの親)さんのジェラシー。
・予算はあってないようなもの。 社内で予算を確保するのに会議とか稟議はあまりない。これがクリエイティビティを保つ秘訣。

その他にも、任天堂の歴史、横井軍平さんのこと、Wii販売日の裏で岩田さんがとった行動などが書かれていたりします。ここではこのへんに留めておきます。

さて、タイトルに書かせて頂いた挫折の話。本には書かれていません。
これは私の考えではありますが、 ニンテンドー64版のMOTHER3というソフトの販売中止ではないかと思います。岩田さんのことを調べている過程で見つけた記事がありまして、それが下のほぼ日のサイトです。

MOTHER 3
当時ゲーム機の画像は3Dの立体的でリアルなものに。そして映画的手法を用いた表現がおこなわれるようになり、開発期間、開発に関わる人数が増加していました。また満足のいく表現を可能にするにはマシンスペックが必要なのですが、それが充分でないため、できないことをやろうとして行き詰まったりしていたようです。

座談会と称して糸井さん、岩田さん、宮本さんが話をされているのですが、糸井さんと岩田さんはその中で「3D病」という発言をされています。64のマリオやゼルダは出来が素晴らしく、3Dのリアルな世界が描かれています。プレイヤーはその世界に入り込んで冒険しているかのように思えてしまう。MOTHER3は技術的な制約を考えず開始された作品であり、マリオやゼルダのリアルな世界を目指してしまった。12章あったものを9章に削ったり、表現可能なものをだけを残す(残したいものではない)などされていったそうですが、完成には至らないと判断。そのため、このMOTHER3はいろいろと頑張ったものの、満足いく形が見えないため、6年間開発を行ったものの中止に。

その他の中止の要因として、6年間の開発の終盤は岩田さんがHAL研から任天堂に籍を移された時期で、上手くプロジェクトに入り込めなかった事、HAL研のメンバーへの教育が十分ではなかったことなどもあげられています。(ただし、HAL研は現在でいう会社更生法での再建途中であったため、人を育てる余裕などなかった) その当時の生々しい苦労が語られています。

で、この座談会の最後に出てくる岩田さん、宮本さんの発言が未来のゲームの姿、言い換えると現在のDSやWiiの方向性を示す発言がなされていました。

全部が大人数で大規模になっていって、いいものをつくるのには、時間がかかりますよ、っていうのが変な常識になっちゃったんですよ。ゲームって、すごいアイディアで、 ちっちゃい物でも、すごく面白いものが作れるってところが 原点だったはずなのに、それがどっかいっちゃって、大変なことが当たり前で、人数と時間をかけることが 競争にすらなっちゃいましたよね。それをたぶん任天堂自身が 否定してみせないといけない、とさえ 言えますよね。(岩田さん)

またねえ、10人くらいで作れるんですよ。 全然、『ゼルダの伝説』とか言わなければ。『鉄拳』だって登場キャラクターを 20人以上も作るから、たいへんなわけで、5人くらいにしておけばいいんですよ。あそこらへんも10人かからないと思うんですよ。けっこうそういう商品も、あると思う。 で、「おっと驚く」ものをつくるのに何人くらい必要かと言えば、「おっと驚く」くらいなら3人くらいでいいわけで。あと、いまは(ゲーム機が)家庭の据え置き型である意味がどれだけあるか、 ってことで、 据え置き型で作っても、 ハンディーに対応できるようにしたらいいし。でも、(ハンディーにしてしまうと) 据え置き型でチャチなものを 作ることになってしまうかもわからないけど(笑)。それくらいシンプルな構造のものの方が いろんなことに対応できますね。(宮本さん)

まさにこの発言が現在の任天堂を表してします。このほぼ日の記事を読んだ時に、本当に驚きました。(ちなみに、岩田さんは社長業を兼務しながら脳トレの開発にも携わってらっしゃいます。) 今まで作りあげたものを否定し、最終的に新しい歴史を作ってしまった任天堂。この挫折がDSやWiiが作成され1つのキッカケとなっているんではないかと思います。この経験を任天堂のトップである岩田さんが忘れない限り、これからも私達に魅力的なハードやソフトを提供してくれるんじゃないかと思います。(もちろんWii Uもその流れを受け継いています)

是非、ほぼ日の記事をご一読ください。この失敗談からゲームのことだけでなく色々な気づきが得られると思いますよ。